Polygenic risk scoreを活用したゲノム個別化医療

ゲノムワイド関連解析(genome-wide association study: GWAS)により同定され、疾患との関連において厳しい有意水準(P値<5.0×10‐8)を満たした各感受性遺伝子変異の個人別ジェノタイプと発症リスクの積を統合して得られるgenotype risk score(GRS)を用いることで、疾患発症群と対象群を一定の精度でゲノム情報に基づき区別することができる。しかし、GWASで同定される感受性遺伝子変異のリスクは1.05~1.2倍程度と比較的小さく、限られた数の感受性遺伝子群だけでは疾患の遺伝的背景の一部しか説明できない(missing heritability)。

”Polygenic risk score”の活用

ありふれた疾患の発症予測において、Polygenic risk score(PRS)は有用である。GRSがGWASにおいて厳しい有意水準(P値<5.0×10‐8)を満たした少数の感受性遺伝子変異を対象とするのに対し、PRSは比較的緩い有意水準(P値<10‐3~10‐5)を満たした数多くの遺伝子変異を対象とする。PRSはゲノム全体に存在する無数のコモンバリアントが弱い疾患リスクを有するという仮説(Polygenic model)に由来している。また、予測モデル構築の元となるGWASのサンプルサイズの大規模化に伴い、疾患発症予測モデルの高精度化が可能になる。生活習慣病など、集団中の一定の割合のサンプルが加齢に伴い発症することが判明している疾患においては、予め発症リスクの高いサンプル群を同定し、予防医療を施すことが有用である。

PRSの新たな可能性

PRSには対象表現型における遺伝的背景の情報が多く含まれており、疾患発症予測やサンプル集団の層別化以外にも活用が期待されている。バイオバンクジャパン(日本)、UKバイオバンク(英国)、FinnGen(フィンランド)の3大バイオバンク70万人を統合する国際共同研究の結果、肥満や高血圧が健康寿命を短縮すること、肥満や高血圧の改善が健康寿命の延伸に貢献することが明らかとなった。一方、血小板やC反応性蛋白は低値であることが健康寿命を短縮するという結果になり、今後の生理学的な検討が期待される。

岡田 随象.Polygenic risk scoreを活用したゲノム個別化医療.日本内科学会雑誌/110 巻 (2021) 3 号.

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA