子どもの脳構造の特徴は診断カテゴリーと一致するか?

自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder: ASD)、注意欠如・多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder: ADHD)、強迫症(obsessive-compulsive disorder: OCD)は、それぞれ異なる診断名が付けられています。しかし、同じ診断を受けた人でも脳や症状には大きな個人差があり、反対に、異なる診断の人が似た脳の特徴を持っていることもあります。

今回の研究では、5~19歳の子どもを対象として、構造MRI(structural MRI: sMRI)から得られた脳形態(brain morphology)の特徴を使い、診断名に頼らず参加者をデータ駆動型(data-driven)に分類しました。

その結果、カナダと米国の独立した2つのデータセットの両方で、参加者を大きく2つのクラスター(cluster)に分けられる構造が再現されました。一方、この2つのクラスターはASD、ADHD、OCDといった従来の診断カテゴリーとはほとんど一致しませんでした

この研究は、神経発達症を「診断名」だけで分類するのではなく、脳の生物学的特徴から診断を横断して捉えることの重要性を示しています。

🧠 ASD・ADHD・OCDは別々の集団なのか?

ASD、ADHD、OCDは、基本的には行動や症状などに基づいて診断されます。

しかし、神経発達症(neurodevelopmental conditions)には大きな異質性(heterogeneity)があります。

たとえば、同じASDという診断を受けていても、社会的コミュニケーション、認知機能、行動特性だけでなく、脳の構造や機能にも大きな個人差があります。

その一方で、ASDとADHDなど異なる診断の間にも、神経生物学的特徴や症状の重なりがあります。

つまり、

同じ診断名=同じ脳の特徴

とは限りません。

そこで近年注目されているのが、最初からASD、ADHD、OCDと分けるのではなく、脳画像などのデータそのものから似た人を探し出すデータ駆動型クラスタリング(data-driven clustering)です。

この方法を使えば、既存の診断カテゴリーを越えた、より生物学的に意味のあるグループを発見できる可能性があります。

ただし、ここには大きな問題があります。

ある研究で発見されたクラスターが、別の集団でも本当に再現できるのか?という問題です。

過去の研究では2~8個など研究によって異なるクラスターが報告されており、結果の再現性(replicability)が重要な課題となっていました。

👦 1,329人の子どもの脳MRIを解析

研究では、独立した2つのデータセットが使用されました。

1つ目はカナダの Province of Ontario Neurodevelopmental Disorder Network(POND)、2つ目は米国ニューヨークの Healthy Brain Network(HBN) です。

対象年齢は5~19歳でした。

PONDでは747人(ASD:312人、ADHD:220人、OCD:70人、定型発達:145人)

HBNでは582人(ASD:60人、ADHD:445人、OCD:19人、定型発達:58人)

が解析されています。

つまり、合計1,329人という比較的大規模な脳画像データを使っています。

さらに重要なのは、PONDとHBNは異なる国・施設から収集された独立したデータセットであることです。

そのため、一方で発見された特徴がもう一方でも確認できれば、「特定の研究集団だけで偶然見つかった結果」ではない可能性が高まります。

🔍 脳の4つの特徴から参加者を分類

研究では構造MRIから、主に次の4種類の脳形態を評価しました。

・皮質表面積(cortical surface area)
・皮質厚(cortical thickness)
・皮質体積(cortical volume)
・皮質下体積(subcortical volume)

皮質については76領域、皮質下については95構造の情報が取得されています。さらに、複数の施設・MRI装置から得られたデータを比較可能にするため、ComBat Harmonizationによるスキャナー効果の補正も行われました。

しかし、これだけ多くの脳領域をそのまま比較すると、データが非常に複雑になります。

そこで研究者らは、まず主成分分析(principal component analysis: PCA)を使用しました。

PCAとは、多数の変数が持っている情報を、できるだけ失わずに少数の指標へまとめる方法です。

たとえば「数学・物理・化学・英語・国語」という5教科の成績があったとき、それらを「理系能力」「文系能力」のような少数の特徴にまとめるイメージです。

この研究では同じように、多数の脳領域の情報をPCAによって整理しました。

🕸️ 「脳が似ている人」をネットワークで結ぶ

次に研究者らは、参加者同士の脳構造がどの程度似ているかを計算し、参加者類似性ネットワーク(participant similarity network)を作りました。

イメージとしては、

脳の特徴が似ている人ほど近くに配置し、似ていない人ほど遠くに配置する

という方法です。

そして、このネットワークに対してスペクトラルクラスタリング(spectral clustering)を適用し、自然に形成されるグループを探索しました。

重要なのは、この時点では「この人はASDだからこのグループ」といった診断情報を使って分類しているわけではないことです。

あくまで、「脳構造が似ているかどうか」によって参加者を分類しています。

🔍 脳構造から見えた「2つのタイプ」

解析すると、非常に興味深い結果が得られました。

皮質表面積、皮質厚、皮質体積、皮質下体積のいずれについても、2クラスター構造が最適と判断されました。

さらに、この2クラスター構造は、

PONDでもHBNでも、男性でも女性でも確認されました

つまり、異なる研究集団で同じような「2つに分かれる構造」が再現されたことになります。

また、PCAで抽出された主成分についても、82.1%がPONDとHBNの間で有意に相関していました。

さらに、2つのクラスター間でどの脳領域がどの程度異なるかを調べたところ、その効果量はPONDとHBNの間で非常によく一致していました。

回帰分析では、

β = 0.92、調整済みR² = 0.93

という高い一致が認められています。

単に「2つに分けられた」というだけではなく、その2群を特徴づける脳構造パターンまで別のデータセットでよく再現されたことが、この研究の重要な点です。

😲 「ASD・ADHD・OCD」とは一致しない

この研究で特に重要なのがここです。

MRIから得られたクラスターと、「ASD」、「ADHD」、「OCD」、「定型発達」という従来の診断カテゴリーとの一致度を調べました。

もし診断カテゴリーが脳構造の違いを強く反映しているのであれば、ASDの人は同じクラスター、ADHDの人は別のクラスターに集まるはずです。

しかし、実際にはそうなりませんでした。

クラスターと診断名の一致度を表す調整Rand指数(adjusted Rand score)は、すべて0.02未満でした。

これは、両者がほとんど一致していないことを意味します。

つまり、ASDの人だけで構成される「ASD型の脳」が存在したわけではありません。

ASD、ADHD、OCD、定型発達の参加者が、脳構造に基づく2つのクラスターの中に混在していました。

この結果は、「診断名」と「脳の生物学的な特徴」が必ずしも一対一に対応していない可能性を示しています。

🧩 MRI指標によって「同じグループ」になる人は違う

ただし、ここで注意すべき点があります。

「どのMRI指標を使っても同じ2グループに分類された」という意味ではありません。

たしかに、どの脳形態指標でも2クラスター構造は確認されました。

しかし、実際に「誰がクラスター1に入り、誰がクラスター2に入るか」を比較すると違いがありました。

特に一致度が高かったのは、

皮質表面積(cortical surface area)↔ 皮質体積(cortical volume)

でした。

調整Rand指数は0.63~0.81でした。

一方、

皮質厚(cortical thickness)↔ 皮質下体積(subcortical volume)

の一致度は0.22~0.44と中程度でした。

その他の組み合わせでは、明確な一致は確認されませんでした。

これは非常に重要な結果です。

皮質表面積と皮質厚は、同じ「大脳皮質の形態」を測定していても、生物学的・遺伝的には異なる特徴を反映していると考えられています。

著者らも、皮質厚と表面積には異なる遺伝的決定因子が存在することを指摘しています。そのため、複数のMRI指標を単純に一つにまとめてクラスタリングすると、異なる生物学的情報を混ぜてしまう可能性があります。

🧒 脳のタイプと症状の関係性は?

研究者らは、脳構造によるクラスターが実際の行動や認知機能と関連するのかについても調べています。

評価されたのは、

・IQ
・自閉症様特性
・不注意
・多動・衝動性
・内在化症状
・外在化症状

などです。

一つずつ比較する単変量解析(univariate analysis)では、クラスター間に再現性のある明確な違いは認められませんでした。

一方、複数の特徴を同時に扱う多変量解析(multivariate analysis)では、男性の皮質下体積(subcortical volume)から作ったクラスターについて、行動・認知・年齢などを組み合わせることで、偶然を上回る精度でクラスターを予測できました。

精度はPONDで0.65、HBNで0.61でした。

このことから、脳構造の違いは「自閉症症状だけ」「不注意だけ」といった一つの特徴ではなく、複数の行動・認知特性の組み合わせと関係している可能性があります。

🚻 男女でも同じ結果だった?

神経発達症には性差があることが知られているため、この研究では男性と女性を分けて解析しています。

その結果、PCAで得られた脳構造、2クラスターという全体的な構造、診断名との不一致、クラスターを特徴づける脳構造パターンなどについて、男女間で高い再現性が認められました。

ただし、女性のサンプルサイズは男性より小さく、女性ではデータのばらつきも大きかったため、女性特有の脳構造パターンを十分に検出できていない可能性があります。

🎯 この研究が意味すること

この研究から「ASD・ADHD・OCDという診断は間違っている」と結論づけることはできません。

現在の診断カテゴリーは、臨床現場で症状を評価し、治療や支援につなげるために重要です。

一方で、この研究は、

臨床的な診断カテゴリーと、脳の生物学的な分類は必ずしも同じではない

ことを示しています。

たとえば、同じASDという診断を受けた2人でも脳構造パターンは異なり、逆にASDとADHDという異なる診断を受けた2人が似た脳構造パターンを持っている可能性があります。

したがって、今後の神経発達症研究では、

「ASDかADHDか」

だけを見るのではなく、

「この人はどのような脳・行動・認知特性を持っているのか」

という診断横断的(transdiagnostic)な視点が重要になってくると考えられます。

著者らも、従来の広い診断カテゴリーより、生物学的に意味のある精密な神経発達症の特徴づけが必要であると議論しています。

⚠️ この研究の限界

もちろん、今回の結果だけで「神経発達症には2種類の脳タイプがある」と断定することはできません。

特に注意したいのは、2クラスターという結果は、今回使用したMRI指標と解析方法によって得られたものだということです。

また、女性の参加者が比較的少なかったため、女性特有のパターンを検出する統計学的検出力が十分ではなかった可能性があります。

行動・認知指標についても、PONDとHBNの両方で取得されている項目に限定されていました。著者らは、反応抑制、記憶、感情認識など、今回検討されていない機能を調べることで新しい脳―行動関連が見つかる可能性を指摘しています。

したがって、今回発見された2クラスターが将来的に臨床的な「サブタイプ」として利用できるかについては、さらなる研究が必要です。

🌟 まとめ

今回の研究では、ASD、ADHD、OCD、定型発達の5~19歳を対象として、構造MRIによるデータ駆動型クラスタリングが行われました。

その結果、独立した2つのデータセットで再現可能な2クラスター構造が確認されました。

一方で、そのクラスターはASD・ADHD・OCDという従来の診断カテゴリーとはほとんど一致しませんでした。

この結果は、

「診断名が違う=脳も異なる」
「診断名が同じ=脳も同じ」

という単純な関係ではない可能性を示しています。

神経発達症には大きな異質性があります。今後は、診断名だけでなく、脳画像、認知機能、行動特性、さらには遺伝情報などを組み合わせることで、個人ごとの神経生物学的特徴をより正確に理解できるようになるかもしれません。

今回の研究は、そのための重要な一歩として、「診断名を超えて脳を見る」ことの可能性と、同時にデータ駆動型分類の再現性を慎重に検証することの重要性を示した研究といえます。

Sadat-Nejad, Y., Vandewouw, M. M., Brian, J., Crosbie, J., Schachar, R. J., Iaboni, A., Kelley, E., Jones, J., Taylor, M. J., Ayub, M., Nicolson, R., Syed, B., Hammill, C., Georgiades, S., Arnold, P. D., Lerch, J. P., Anagnostou, E., & Kushki, A. (2025). Characterizing replicability in the clustering structure of brain morphology in autism, attention-deficit/hyperactivity disorder, and obsessive compulsive disorder. Translational Psychiatry, 15, 333. https://doi.org/10.1038/s41398-025-03540-y

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