老化細胞 

体の細胞は日々、分裂を繰り返しています。そしていずれ分裂回数の限界(ヘイフリック限界)に達し、それ以上細胞は分裂しなくなります。

通常このような細胞は、自ら死んで壊れる(アポトーシス)か、免疫細胞に食べられるなどして体内から消えますが、なぜか体内から消えずに残ったままの細胞があります。

この細胞分裂が限界に達した後も、死ぬことなく体内に残っている細胞を「老化細胞」といいます。

老化細胞の特徴

1.光学顕微鏡で観察すると、細胞が肥大化しており細胞質内に空包が生じている。また、細胞質の扁平化もみられる。

2.senescence-associated β-galactosidase(SA β-gal)とよばれる酸性β‐ガラクトシダーゼの活性が上昇している。

3.senescence-associated heterochromatin foci(SAHF)とよばれる特異的なヘテロクロマチン構造が形成されている。

4.細胞老化随伴分泌現象(senesence-associated secretory phenotype : SASP)という特異的な現象を引き起こす。

そもそも“細胞の老化”とは

哺乳動物の体細胞は分裂することで数を増やします(増殖)。しかし、分裂回数には限界があり、ある回数分裂を繰り返した後はそれ以上分裂しなくなります。

細胞が分裂できなくなり、増殖を停止することを”細胞老化”といいます。

ちなみに細胞分裂の回数は一定ではなく、

ストレスの多い環境下で細胞を培養すると、分裂回数は低下し、細胞老化が早くなります。

一方で、細胞にとって良い環境(5%酸素濃度など)で培養すると、分裂回数は増加します。

つまり、細胞の状態や環境で分裂回数は変化します。

細胞老化随伴分泌現象(SASP)が注目されている

老化細胞は細胞分裂が停止しているだけでなく、様々なタンパク質を分泌することで周辺の組織に影響を与えることが近年の研究でわかってきました。

この現象を”細胞老化随伴分泌現象(senesence-associated secretory phenotype : SASP [サスプ])”といいます。

過剰なSASPは周辺の組織に慢性炎症を引き起こし、がんや動脈硬化といった加齢性疾患の発症や病態悪化につながることが報告されています。

しかし、SASPにはメリットもあり、腎臓などの正常な組織発生過程に必要であり、肝臓においては障害後の組織線維化を抑制する効果があることも分かっています。さらに、創傷部位の修復の促進など、私たちが生きていく上で重要な役割もになっています。

細胞老化が私たちの体に与える影響

老化細胞は加齢に伴ってさまざまな組織で蓄積されていきます。

その数はきわめて少ないと言われていますが、老化細胞は体内に残って過剰なSASPなどにより人体に悪影響を及ぼしますので、けして無視できるものではありません。

メカニズムについてはまだ解明されていない部分も多いですが、老化細胞の蓄積は、アルツハイマー病、糸球体硬化症、肝炎、肺線維症、動脈硬化症などさまざまな病気と関連していることがわかってきました。

老化細胞は除去できるのか

すでにマウスを対象とした研究では、組織の中から選択的に老化細胞を取り出すことができるようになっています。

さらに、老化細胞を除去すると、先に述べた病気の改善のほかに、最大寿命が延長することが報告されています。

現在、薬剤を使用して老化細胞を生体から除去する方法が研究されていますが、なかでも老化細胞を選択的に殺すことができる薬剤を”senolytic薬”とよんでいます。

参考文献

 川口耕一郎 他「細胞老化」,医学のあゆみ,2020年4月,332‐337ページ

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