脳はどのように成長し、衰えるのか?人生100年の脳変化を解き明かす
みなさんは、脳がいつどのように成長し、どのように老化し始めるのかをご存じでしょうか?
身長や体重には「成長曲線」というものがあります。しかし、脳にはそのような“基準表”が今まで存在しませんでした。
それを一気に変えたのが、Nature誌(2022年)に掲載された大規模研究
「Brain charts for the human lifespan」です。
本記事では、この研究が示した「脳の成長と老化の新常識」を、分かりやすく解説します。
👶 脳にも“成長曲線”が必要だった
私たちの体には、年齢ごとの「平均的な成長」が示された成長曲線があります。
これにより医師は、子どもの発達が順調かどうか判断できます。
しかし、脳にはそれがなかったため、発達が速いのか遅いのか、老化が早いのか普通なのか、病気で脳がどう変化しているのか、などが比較しづらいという問題がありました。
🌍 世界中から集めた12万件のMRIデータ
研究チームは驚くべき規模のデータを集めました。
・100以上の研究から集めた脳MRI 123,984件
・対象は受胎115日後の胎児〜100歳までの101,457人
これまでに類を見ない“脳のビッグデータ”です。
このデータを使い、脳の主要な指標(灰白質・白質・皮質厚・脳室など)の「年齢ごとの正常値」を数学モデルで作成しました。
これが、脳版の成長曲線=Brain Chart(脳の基準曲線)です。

Bethlehem, R. A. I., et al. (2022). Nature, 604(7906), 525–533.
📈 明らかになった“脳の成長と老化の新事実”
Brain Chartを使うことで、脳の成長のピークが明確に分かりました。
🔹 灰白質(思考・情報処理の基盤)
5.9歳で最大に達し、その後ゆっくり減少へ
→「脳のピークは10代」というイメージが覆されるほど、非常に早いピークです。
🔹 白質(神経配線・判断力の基盤)
28.7歳でピーク
→ 20代後半まで“脳のネットワーク”は成長し続ける。
🔹 皮質厚(計画・記憶・行動のコントロール)
1.7歳でピーク
→ 乳幼児期の脳発達の速さを裏付けるデータ。
さらに、感覚をつかさどる領域は早く完成し、計画や思考を担う“連合野”は後から成熟するなど、「脳が育つ順番」も明確に可視化されました。
🧭 自分の脳を“年齢に合わせて評価”できる時代へ
Brain Chartの最大の利点は、あなたの脳MRIを年齢に合わせて数値化できることです。
身長で「何%タイル」と表すのと同じように、脳も同年代の平均と比べて大きい?小さい?
成長が早い?遅い?をセンタイル値として評価できます。
これにより、発達障害、アルツハイマー病、統合失調症、うつ病、早産の影響など、さまざまな状態を“脳の基準軸”に沿って比較できるようになります。
🔧 医学・研究・将来の健康管理に広がる可能性
Brain Chartが普及すると、次のような未来が見えてきます。
✔ 病気の早期発見
「通常より早く萎縮が進んでいる」など、個人レベルで変化を検出。
✔ 認知症リスクの可視化
“脳年齢との差”を定量化できる。
✔ 子どもの発達の客観評価
脳の成長が早い・遅いを科学的に評価できる。
✔ 研究の標準化
世界中でデータ比較が容易に。
特に、アンチエイジング分野では、脳の若返り研究の指標として利用価値が高いと考えられます。
🌟 まとめ
この研究が示したのは、
「脳の発達と老化には明確な基準があり、それを誰でも使える形で示すことができる」
という新しい事実です。
今後、Brain Chartは、医療・研究・予防医学・アンチエイジングの分野で、「脳の健康を測るためのスタンダード」になる可能性があります。
Bethlehem, R. A. I., Seidlitz, J., White, S. R., Vogel, J. W., Anderson, K. M., Adamson, C., … & Bullmore, E. T. (2022). Brain charts for the human lifespan. Nature, 604(7906), 525–533. https://doi.org/10.1038/s41586-022-04554-y
