認知症の兆候は“形”より“硬さ”で分かる時代へ ─ MRE技術とは?

「実年齢より若く見える」「脳年齢が若い」といった言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。
近年の研究では、脳にも“年齢”があり、それを画像から推定できることが分かってきました。

今回紹介する論文は、脳の“やわらかさ”に注目することで、アルツハイマー病などの早期変化を捉えられる可能性を示した、非常に注目度の高い研究です。

🔍 なぜ認知症は「早期発見」が難しいのか?

アルツハイマー病などの認知症では、
👉 症状が出たときには、すでに脳の変化がかなり進んでいる
ということが大きな問題です。

従来よく使われてきたMRIは、

・脳の萎縮

・海馬の体積減少

といった「形の変化」を捉えるのが得意ですが、
もっと早い“目に見えない変化”には弱いという限界がありました。

🧪 新しい主役「MRE」とは何か?

そこで登場するのが、
MRE(磁気共鳴エラストグラフィ)という検査法です。

これは一言でいうと、

脳の“硬さ”や“粘り気”を測るMRI

です。

MREで分かる2つの指標

硬さ(stiffness)⇒ 脳組織がどれくらいしっかりしているか

減衰比(damping ratio)⇒ 組織の内部構造がどれくらい乱れているか

実は、脳は年齢とともに少しずつ柔らかくなることが分かっており、
この変化は、脳の細胞レベルの異常を反映していると考えられています。

🤖 AIで「脳年齢」を予測する

この研究では、
AI(機械学習)を使ってMRE画像から脳年齢を予測しました。

ポイントは、

10代〜90代の健康な人311人のデータで
👉「正常な脳の老化パターン」を学習

その後、
👉 軽度認知障害(MCI)やアルツハイマー病(AD)の人に適用

という流れです。

AIには、少ないデータでも学習しやすい最新手法(コントラスト学習)が使われています。

📏 MRIより正確だった「脳年齢」

結果は非常に興味深いものでした。

MREを使った脳年齢予測
⇒ 実年齢との誤差は 平均3.5年

通常のMRIを使った予測
⇒ 誤差は 約4.8年

つまり、
👉 MREの方が「脳の年齢」をより正確に当てられた
ということです。

🔍 軽度認知障害とアルツハイマー病の違いが見えた

さらに重要なのは、
病気の段階ごとに、変化する指標が違った点です。

軽度認知障害(MCI)で、主に変化していたのは
👉 減衰比

これは「ごく初期の脳の乱れを反映している可能性」があります。

一方、アルツハイマー病(AD)で、主に変化していたのは
👉 硬さの低下

これは「進行した脳の変性を反映」しており、「同じ認知症でも、進行段階で“壊れ方”が違う」
ことを示しています。

🧠 注目された脳の部位は「視床」と「尾状核」

AIが特に重要だと判断した部位は、

視床(thalamus)

尾状核(caudate)

これらは、脳全体の情報中継や記憶・思考・運動の調整に関わる深い部分の脳です。

見た目では変化が分かりにくい場所だからこそ、
MREのような新しい指標が力を発揮します。

👀 健康な人の中にも「要注意サイン」が?

驚くべきことに、

「認知機能が正常な人の中にも、MCIやADに似た脳パターン」
を示す人がいました。

これは、

・将来リスクが高い人なのか

・たまたま似ているだけなのか

はまだ分かりません。

しかし、
「症状が出る前に気づける可能性」を示した点は、
非常に大きな意味を持ちます。

🌱 この研究が示す未来

この研究は、

・認知症の超早期発見

・個人ごとのリスク評価

・予防や介入の最適なタイミングの判断

につながる可能性を示しています。

将来的には、「今は元気だけど、脳は少し注意が必要ですね」といった
“脳の健康診断”が実現するかもしれません。

おまけ:MREって何をしている検査なの?

MRE(磁気共鳴エラストグラフィ)は、一言でいうと

「脳をやさしく揺らして、やわらかさを調べるMRI」です。

普通のMRIが「脳の写真」を撮る検査だとしたら、
MREは「脳の手触り」を調べる検査のようなものです。

MREの方法は、

① 「ごく弱い振動」を脳に伝える:頭にとても弱い振動(低周波)を与えます。周波数はおよそ20〜60Hzで、痛みはなく、音や不快感もほぼありません。

② MRIで「揺れの伝わり方」を撮影する:ここがMREの最大の特徴で、MRI装置のとても小さな動きを捉える能力を使って、『振動が脳の中をどうやって伝わっていくか』を画像として記録します。

③ 揺れ方から「硬さ」を計算する:撮影したデータを解析し、

 ・波が速く伝わる ⇒ 硬い

 ・波がゆっくり広がる ⇒ やわらかい

この情報をもとに、硬さ(stiffness)や粘り気(減衰比)を数値として計算し、色付きマップとして表示します。

このようにして、「脳の硬さ地図」を作成します。
※MREの画像では、硬い部分を「青・紫」に、やわらかい部分を「赤・黄色」といった形で表示されることが多いです。

なぜ「硬さ」で老化が分かるのかというと、脳は年齢とともに、

・神経細胞が減る

・神経のつながりが弱くなる

・内部構造が乱れる

といった変化が起こります。

これらはすべて、『脳をやわらかくする方向に働く』のです。

つまり、脳がやわらかくなる = 老化や病気のサイン

というわけです。

✨ まとめ

・ 脳の「硬さ」に注目すると、老化や認知症が早く分かる

・ AI × MREで、MRIより正確な脳年齢予測が可能

・ 軽度認知障害とアルツハイマー病では、脳の変化の質が違う

・ 症状が出る前のリスク発見につながる可能性

認知症は「治す病気」から「防ぐ病気」へ。
その流れを加速させる、非常に重要な研究と言えるでしょう。

Träuble, J., Hiscox, L. V., Johnson, C. L., Aviles-Rivero, A., Schönlieb, C. B., & Kaminski Schierle, G. S. (2025). Brain age prediction and early neurodegeneration detection using contrastive learning on brain biomechanics: A retrospective, multicentre study. eBioMedicine, 121, 105996.

https://www.thelancet.com/journals/ebiom/article/PIIS2352-3964(25)00440-2/fulltext

https://doi.org/10.1016/j.ebiom.2025.105996

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