加法と乗法で変わる?交互作用の正しい見方とは

疫学研究では、「ある要因が病気に与える影響」を調べることが基本です。
しかし現実の世界では、1つの要因だけで病気が起こることはほとんどありません。
たとえば、
・喫煙 🚬
・アスベスト 🏗️
これらは単独でも肺がんリスクを高めますが、
両方が重なると、リスクはどうなるのでしょうか?
このような
「2つの要因が同時に存在したとき、影響は単純な足し算や掛け算になるのか?」
という問いを扱うのが、疫学における交互作用(interaction)です。
🧩 交互作用=「効果が条件によって変わる」こと
疫学でいう交互作用とは、
「ある曝露の効果が、別の因子の有無によって変わること」
を意味します。
別の言い方をすると、
・Aだけの影響
・Bだけの影響
・AとBが同時にあるときの影響
この3つを比べて、「同時効果が“想定以上”かどうか」を考えます。
ここで重要なのが、
「想定以上」とは何を基準にするのか?
という問題です。
📏 実は2種類ある!交互作用の「ものさし(尺度)」
この論文が強調している最大のポイントは、
交互作用は「どの尺度で見るか」によって結論が変わる
という点です。
~ ① 掛け算の世界(乗法尺度)~
統計解析でよく使われるロジスティック回帰では、
・リスク比
・オッズ比
のような「何倍になるか」で効果を表します。
この世界では、
AとBを同時に受けたときの効果
= Aの効果 × Bの効果
が「交互作用なし」の基準になります。
これを『乗法的交互作用』と呼びます。
~ ② 足し算の世界(加法尺度)~
一方、公衆衛生で重要なのは、
・「何人分リスクが増えたか」
・「どれだけ病気を防げるか」
という実数ベースの影響です。
この場合は、
AとBを同時に受けたときのリスク
= Aによる増加分 + Bによる増加分
が基準になります。
これが『加法的交互作用』です。
⚠️ 同じデータなのに、結論が逆になる!?
この論文で最も重要かつ、多くの初学者が混乱しやすいポイントがここです。
同じデータを使っているのに、
・加法尺度では「相乗効果あり」
・乗法尺度では「交互作用なし」や「拮抗」と結論づけられることがある
一見すると、
「どちらかが間違っているのでは?」
と思ってしまいますが、どちらも間違いではありません。
理由はとてもシンプルで、
“比較の基準”が違うだけ だからです。
🧮 具体例で考えてみよう
まず前提条件として、ある病気の発症リスクが、
・何もない人:1%
・要因Aあり:2%
・要因Bあり:2%
だとします。
① 掛け算(乗法尺度)で考えると…
乗法尺度では「何倍になったか」を見ます。
・Aの効果:2倍(1% → 2%)
・Bの効果:2倍(1% → 2%)
交互作用がなければ、同時効果は 2 × 2 = 4倍 が期待値です。
何もない人の1% × 4 = 4%
実際のリスクも 4% だった場合は「期待通り」
つまり、乗法的には「交互作用なし」
と判断されます。
② 足し算(加法尺度)で考えると…
加法尺度では、「どれだけ“増えたか”」に注目します。
・Aの影響:+1%
・Bの影響:+1%
交互作用がなければ、同時にあっても +2%(=3%) になるはずです。
ところが…
もし実際に、AとBが両方ある人のリスクが 4%
だったら?
1% → 4%
増加量は +3%
これは明らかに、AとBが一緒になると、
単独効果の足し算以上にリスクが増えている
つまり、加法的には「相乗効果あり(superadditive)」
と判断されます。
何が起きているのか?
ここで重要なのは、
・掛け算の世界では「期待通り」
・足し算の世界では「期待以上」
という “見え方の違い” です。
同じ4%という数字でも、
| 見方 | 判断 |
|---|---|
| 加法 | 相乗効果あり |
| 乗法 | 交互作用なし |
⇒ どちらも正しい。でも、問いが違う。
なぜこんなことが起こるの?
理由は、基準点が違うからです。
乗法尺度 ⇒ 「何倍になったか(相対量)」
加法尺度 ⇒ 「どれだけ人数が増えたか(絶対量)」
これはちょうど、
給料が「1.5倍になった」
給料が「+5万円増えた」
どちらで評価するかが違うのと同じです。
🌍 なぜ公衆衛生では「加法尺度」が重要なのか
著者らは、特に次の点を強調しています。
公衆衛生の目的は「何人救えるか」
加法尺度は、
・どの集団で
・どれだけ病気を減らせるか
を直接的に示します。
たとえば、あるリスク因子が特定の集団で特に強く効く
と分かれば、その集団を優先的に介入対象にできます。
これは政策立案や予防戦略に直結します。
🛠️ 実際の研究ではどうすればいい?
この論文の結論は、とても現実的です。
正解は「1つではない」
・生物学的メカニズムを知りたい → どの尺度が妥当か考える
・公衆衛生的インパクトを評価したい → 加法尺度を重視
・判断に迷う → 両方を見る
特に重要なのは、
結果が尺度によって異なる場合、その事実を正直に示すこと
です。
✨まとめ
・交互作用は「2つの要因が同時に働くときの効果」
・乗法尺度と加法尺度では結論が変わることがある
・公衆衛生では加法尺度が特に重要
・研究目的に応じて、尺度を選び、必要なら両方示す
Whitcomb, B. W., & Naimi, A. I. (2023). Interaction in theory and in practice: Evaluating combinations of exposures in epidemiologic research. American Journal of Epidemiology, 192(6), 845–848. https://doi.org/10.1093/aje/kwad034
