ケトジェニック食で「うつ」が改善!?

「食事を変えるだけで、気分や心の状態も良くなるとしたら?」
そんな疑問に、最新の科学的エビデンスで答えようとした論文が、精神医学のトップジャーナル JAMA Psychiatry に掲載されました。
本記事では、その論文をもとに、ケトジェニックダイエットと心の健康の関係について、できるだけわかりやすく解説します。
✅ そもそもケトジェニック食って何?
ケトジェニック食(ケトン食)とは、食事の炭水化物を極端に減らし、脂質を主なエネルギー源にする食事法です。
通常、私たちの脳は「ブドウ糖」をエネルギーとして使っていますが、ケトン食では体内で「ケトン体」という物質が作られ、これを脳が利用するようになります。
もともとはてんかん治療で使われてきた食事療法ですが、近年では、糖代謝の改善や炎症の抑制、脳エネルギー効率の変化といった作用が注目され、うつ病などの精神症状への影響も研究されるようになりました。
📘 この論文は何を調べたの?
この研究は、
👉 ケトン食とうつ・不安症状の関係を調べた
👉 システマティックレビュー+メタ解析
です。
簡単に言うと、世界中の関連研究を集め信頼性を評価し、データを統合して「全体として、どんな傾向があるのか?」を検証しています。
対象となったのは 50本の研究。
その中には、質の高いランダム化比較試験(RCT)も含まれています。
📉 ケトン食は「うつ」を改善した?
結論から言うと、「うつ症状は、ケトン食で改善する傾向」がみられました。
特に重要なのが、以下の結果です。
・10件のランダム化比較試験(RCT)を分析したところ、ケトン食は抑うつ症状を小〜中等度改善した
・実際にケトーシス(栄養性ケトーシス)を測定していた研究では、改善効果が「大」
・「ケト食を勧めただけ」vs「本当にケトーシスに入っていることを確認」この2つは全く別の介入だった
研究者はこの結果を、「うつ症状に対しては、一定の有望性がある」と慎重に評価しています。
🧠 なぜケトン食(ケトーシス)が脳に良いのか?
考えられるメカニズムは、
・ケトン体は脳にとって効率の良いエネルギー源
・神経炎症の低下
・神経伝達物質のバランス改善
:GABA ↑(リラックス系)
:グルタミン酸 ↓(興奮系)
・ミトコンドリア機能の改善
特に、代謝機能が低下している人ほど効果が出やすい可能性が示唆されています。
😰 不安症状には効いたの?
一方で、不安症状については少し違いました。
RCTでは、改善も悪化もしなかった(中立)。ただし、非ランダム化研究では改善傾向があった。
ただし、もともと「不安障害の治療」を目的とした研究ではないため、今後の研究が必要とされています。
⭐ 効果を左右したのは何か?
この論文で最も重要なメッセージは、
1.効果が最大だった条件
・ケトーシスをきちんと確認している
・炭水化物が10%未満の厳格な制限
・肥満がなく、代謝的に健康な人
2.「どれだけケトーシスに入っているか」が、改善度を決めていた
これは、今後の研究や臨床応用にとって非常に重要な示唆です。
⚠️ 安全性は大丈夫?
全体として、安全性は良好でした。
多く見られた副作用としては、初期数週間の倦怠感や頭痛、便秘など(いわゆる「ケトフル」)でした。
また、注意すべき点として、SGLT2阻害薬(糖尿病治療薬)を使用している人で、正常血糖性ケトアシドーシスが1例報告された。
そのため、SGLT2阻害薬 × ケトン食は原則併用禁忌である。
📝 まとめ
最後に、この論文のメッセージを一言でまとめると、
「ケトン食は、うつ症状に対しては有望な可能性があるが、不安症状や臨床応用については、さらなる研究が必要である」
という、非常に科学的で慎重な結論です。
Janssen-Aguilar, R., Vije, T., Peera, M., Al-Shamali, H. F., Meshkat, S., Lin, Q., Lou, W., Laviada-Molina, H., Phillips, M. L., & Bhat, V. (2025). Ketogenic diets and depression and anxiety: A systematic review and meta-analysis. JAMA Psychiatry. Advance online publication. https://doi.org/10.1001/jamapsychiatry.2025.3261
