あなたの臓器は何歳?MRIで“生物学的年齢”を測る

「実年齢」と「体の年齢」は同じでしょうか?
同じ年齢でも、若く見える人や老けて見える人がいるように、体内臓器の老化の進み方にも大きな個人差があることが分かってきました。

今回紹介するのは、MRI画像を使って、体内のさまざまな臓器の“老化年齢”を測定できるという、Nature Medicine に掲載された研究です。
この研究は、今後の健康寿命・病気予測・認知症研究を大きく変える可能性を秘めています。

🔍 そもそも「老化」はどうやって測るの?

これまで老化は、年齢や血液検査、体力や病気の有無などで間接的に評価されてきました。

しかし最近は、「生物学的年齢(=体がどれくらい老化しているか)」という考え方が注目されています。

同じ60歳でも、脳は50歳相当、肝臓は65歳相当ということが実際に起こりうるのです。

👉 MRIで“7つの臓器の老化年齢”を測定

この研究では、UKバイオバンクに登録された30万人以上の参加者について、脳、心臓、腹部MRI(肝臓・腎臓・膵臓・脾臓・脂肪組織)といった7つの臓器のMRI画像を使用しました。

次に、MRI画像から以下のような「画像から計算された数値(特徴量)」を抽出しました。

・脳の灰白質の体積

・心臓の壁の厚さ

・肝臓や腎臓の容積

・内臓脂肪の量

これらは「年齢とともに少しずつ変化する指標」であり、老化の痕跡が含まれています。

さらに、健康な人のMRIデータ(約3,500~6,300人(臓器別))を使い「このMRI画像は何歳の人のものか?」をAIに学習させました。

AIは、「このくらいの脳の体積なら60歳くらい」、「この心臓の形は50代が多い」といった年齢パターンを自動的に学びます。

最後に、AIが予測した年齢と、実際の年齢を比べます。

・予測年齢:65歳

・実年齢:60歳

であれば、+5歳(老化が進んでいる)

・予測年齢:55歳

・実年齢:60歳

であれば、−5歳(若い状態)

この差が、MRIBAG(MRI-based Biological Age Gap)= 生物学的年齢ギャップ です。

📊 老化は「全身一律」ではなかった

この研究で特に重要なのは、老化は体全体で同じスピードで進むわけではないと明確に示された点です。

例えば、

脳の老化が進んでいる人

脂肪組織の老化が進んでいる人

肝臓や脾臓が“若い状態”を保っている人

など、老化のパターンは人それぞれでした。

つまり、「老化=年齢」ではなく、「どの臓器がどれくらい老いているか」が重要ということです。

🧬 血液・遺伝子とも強く関連していた

驚くべきことに、MRIで測った臓器の老化年齢は、「血液中のタンパク質」、「代謝物(糖・脂質など)」、「遺伝子の違い」と強く関連していました。

血液中に含まれる炎症に関わるタンパク質や代謝を調整するホルモン、臓器から分泌されるシグナル分子など、約3,000種類のタンパク質を測定しました。

タンパク質は、体内で今まさに起きている変化を反映します。つまり、慢性炎症や臓器のダメージ、代謝の乱れがあると、血液中のタンパク質の量が変わります。

MRI画像から分かった「老けている臓器」と血液データを照合することで、

脳の老化    ⇒ 神経炎症に関わるタンパク質が変化

腎臓の老化   ⇒ 腎機能・老廃物処理に関係するタンパク質が変化

脂肪組織の老化 ⇒ 炎症や代謝に関係するタンパク質が変化

というように、「どの臓器が老化しているか」で、血液中の変化のパターンが違うことがはっきり示されました。

これはつまり、MRIで見えている老化は、体の中で本当に起きている老化を反映しているという強い証拠になります。

さらに、遺伝子解析では、約650万か所の遺伝子変異を使って、「MRIで測った老化年齢と関係する遺伝子」を探索しました。

ゲノムワイド関連解析という方法を用いて、53の遺伝子座が見つかりました。

また、脳の老化に関係する遺伝子、心臓の老化に関係する遺伝子、肝臓・腎臓の老化に関係する遺伝子がそれぞれ異なることが分かりました。

つまり、老化は「全身一律の現象」ではなく、遺伝子的にも臓器ごとに制御されているということです。

⚠️ 病気・死亡リスクも予測できた

この研究のインパクトが大きい理由は、将来の病気や死亡リスクとの関連まで示された点です。

老化が進んでいるとリスクが高かったものは以下の通りでした。

・糖尿病

・高血圧

・認知症関連疾患

・全死亡リスク

特に、脳の老化や脂肪組織の老化が進んでいる人ほど、将来の健康リスクが高い傾向がありました。

🧠 認知症や老化研究にも新たな可能性

アルツハイマー病予防の臨床試験データを解析したところ、脳が“若い”人と脳が“老けている”人では、認知機能の低下の仕方が明確に違うことも分かりました。

これは、「認知症の薬や予防法を、”同じ人に同じ治療”ではなく、脳の老化状態に応じて使い分ける」未来につながる重要な知見です。

さらに、遺伝子解析を組み合わせることで、すでに薬の標的になっている遺伝子や老化を調整できる可能性のある分子も見つかりました。

将来的には、老化を遅らせる治療臓器ごとのアンチエイジング個別化医療(オーダーメイド医療)につながる可能性があります。

まとめ:老化は「測れる」「予測できる」時代へ

この研究が伝えている最も重要なメッセージは、老化は目に見えないものではなく、MRIで“臓器ごとに可視化できる現象”であるということです。

年齢だけにとらわれず、「自分の体は今どんな状態なのか」を知る時代が、確実に近づいています。

Cao, H., Song, Z., Duggan, M. R., Erus, G., Srinivasan, D., Tian, Y. E., Bai, W., Rafii, M. S., Aisen, P., Belsky, D. W., Walker, K. A., Zalesky, A., Ferrucci, L., Davatzikos, C., Wen, J., & the MULTI Consortium. (2025). MRI-based multi-organ clocks for healthy aging and disease assessment. Nature Medicine. https://doi.org/10.1038/s41591-025-03999-8

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