軽度認知障害から認知症へ:見当識低下が進行リスク1.5倍に
「今日は何日か?」「ここはどこか?」――このような質問に答えられる能力を「見当識」と呼びます。
これは自分自身が置かれている状況を理解するために必要な能力で、私たちが日常をスムーズに送るうえで欠かせません。
しかし、認知症やその前段階である軽度認知障害(MCI)の人では、この見当識が徐々に低下していきます。
単なる物忘れではなく、「時間や場所が分からない」という症状は、実は病気の進行と深く関わっているのです。
🧩 研究で分かった「見当識」と脳の関係
今回紹介する論文は、アルツハイマー病研究の国際プロジェクト(ADNI)のデータを用いて、MCIとAD患者473名を詳しく調べました。
その結果、見当識障害は次のような脳や認知機能の変化と強く結びついていることが分かりました。
・記憶力の低下(特にエピソード記憶)
・海馬や内嗅皮質の萎縮(MRIで測定)
・側頭葉や海馬の糖代謝の低下(PET検査で測定)
つまり、見当識は 記憶と脳の健康状態を映し出す鏡 のような存在だといえます。
📉 見当識障害は予後を悪くする
さらに研究では、見当識が低下している人は以下の特徴を持っていました。
・日常生活の自立度が急速に低下(4年間の追跡で顕著に悪化)
・MCIからADへの進行リスクが1.5倍
これはつまり、「見当識障害がある=病気が早く進みやすい」ことを意味しています。
🧪 なぜ見当識が大事なのか?
見当識は、ほんの数問の質問で簡単に評価できます。しかも、脳の萎縮や代謝低下と結びつき、将来の認知症進行も予測できる。
まさに シンプルで強力な臨床指標 なのです。
ただし、健康な高齢者では点数がほとんど満点になる「天井効果」があり、前段階での細かい変化までは捉えにくい点も注意が必要です。
💡 日常生活へのヒント
見当識障害は単なる「うっかり」ではなく、認知症の重要なサインです。
「今日は何月何日ですか?」
「ここはどこですか?何階ですか?」
こうした質問に答えにくくなるときは、専門医に相談するタイミングかもしれません。
✨ まとめ
・見当識は、時間や場所を正しく把握する力
・記憶力や海馬など脳の健康と密接に関連している
・見当識障害は、MCIからアルツハイマー病への進行を予測する重要なサイン
・簡単な質問で評価でき、臨床や研究でも大きな意味を持つ
Sousa, A., Gomar, J. J., & Goldberg, T. E. (2015). Neural and behavioral substrates of disorientation in mild cognitive impairment and Alzheimer’s disease. Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions, 1(1), 37–45. https://doi.org/10.1016/j.trci.2015.04.002