若年性がん・ユーイング肉腫の新たな治療ターゲットか──“Tau”の可能性

──ユーイング肉腫に新たな光をもたらす“Tau”の働き

「がんが広がりにくくなるタンパク質がある」
そんなことが本当にあるのでしょうか?

2025年に発表された最新の研究が、ユーイング肉腫(Ewing sarcoma)という希少がんにおいて、ある意外なタンパク質ががんの進行を抑える可能性を示しました。
そのタンパク質の名は──Tau(タウ)。もともとはアルツハイマー病など神経の病気に関係する因子として知られてきたものです。

🔍 ユーイング肉腫ってどんながん?

ユーイング肉腫は、10〜30代の若年層に多く見られる骨や軟部組織に発生する悪性腫瘍で、比較的まれな疾患です。

治療は主に化学療法・放射線・手術の組み合わせですが、転移がある場合や再発時の予後は依然として厳しいのが現状です。

🧠 Tauは“神経のたんぱく質”だったはずが…

Tauはもともと、神経細胞の構造を保つ微小管結合タンパク質として知られており、アルツハイマー病などで異常蓄積することで注目されてきました。

ところが最近になって、Tauががん細胞でも発現しており、細胞の安定性やDNA修復、腫瘍の挙動にも関わっていることがわかってきました。

🧪 今回の研究のポイント

・ユーイング肉腫の細胞や患者データを解析したところ、Tauが高発現している患者ほど生存期間が長く、がんの進行も抑えられていることが明らかになった。

・Tauの発現を抑えると、がん細胞はより浸潤性(=周囲に広がる力)が強くなる。

・分子マーカー(p-FAK, ビメンチンなど)も、Tauが少ない細胞で増加し、より“攻撃的な性質”に変化。

つまり、Tauがあることで、がんの性質が“おとなしくなる”可能性があるというのです。

📈 生存率との関係も明らかに

166人のユーイング肉腫患者の臨床データを解析した結果、Tauの発現が高い群では、低い群よりも有意に全生存率(Overall Survival)が良好でした。さらに、免疫染色による実際の腫瘍組織でも、この傾向が裏付けられています。

これは、Tauが予後予測マーカー(バイオマーカー)として使えるかもしれないことを意味します。

🧬 治療の可能性は?

現時点でTauを直接標的にするがん治療はありませんが、

・Tau発現を維持・誘導する方法

・Tauを介したがん抑制経路の活性化
などが今後の新たな治療戦略として期待されます。

✅ まとめ:「がん」と「神経」の意外な接点から広がる新たな可能性

この研究は、一見関係なさそうな分野(神経科学)と腫瘍学が交差することで、新たな治療のヒントが生まれるという好例です。
がん細胞を“やっつける”だけでなく、“落ち着かせる”という考え方にも注目が集まり始めています。

脳のタンパク質が、がんの広がりを止める──
そんな未来が、少しずつ現実になろうとしています。

Cidre-Aranaz F, Magrin C, Zimmermann M, et al. (2025).
High Tau expression correlates with reduced invasion and prolonged survival in Ewing sarcoma. Cell Death Discovery, 11, Article 144. https://doi.org/10.1038/s41420-025-02497-7

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