認知症対策に“声の届かない人々”をどう取り込むか?
「認知症は誰にでも起こりうる病気です」
しかし、実際には「誰もが同じように守られているわけではない」という現実が存在しています。
私たちの社会はますます多様化しています。国籍、人種、言語、文化、宗教、性的指向、社会的地位…
この「多様性」は、日々の暮らしの中で当たり前になりつつありますが、医療や研究の世界ではまだ十分に反映されているとは言えません。
2025年に発表されたあるレビューは、私たちにこんな問いを投げかけています。
「認知症支援に、マイノリティの声は本当に届いているのか?」
🔍 “声の届かない人々”
認知症のリスクは、加齢や遺伝だけでなく、社会的背景(貧困・教育・人種・性的指向など)によっても大きく左右されることがわかっています。
特に、次のような人々はリスクが高いにもかかわらず、研究にも支援にも十分に取り込まれていません:
・少数民族・移民
・LGBTQ+コミュニティ
・障がいを持つ人々
・ホームレスや地域的に孤立した高齢者
📘 何が明らかになったのか?
英国の研究チームが行ったこのレビューは、2013~2023年の間に発行された非学術文献(グレーリテラチャー)30件を分析しました。
キーワードは「参加型アプローチ(participatory methodologies)」。
つまり、当事者がただ“対象”になるのではなく、一緒に考え、作り上げるケアや研究の方法です。
しかし分析の結果、多くの取り組みは次のような問題を抱えていました:
・当事者の参加は「相談」にとどまり、企画や評価への関与は少ない
・プロジェクトの終了後、フィードバックや成果共有が十分に行われていない
・当事者の声が、実際の政策や実践に結びついていない
🔁 何が足りないのか?
この研究は、「協働」の名のもとに行われている取り組みの多くが、表面的な“参加”にすぎないことを問題視しています。
本当に必要なのは、当事者と支援者が対等なパートナーとして共に作る“共同創出(co-creation)”のアプローチです。
それは、「聞く」から「一緒に決める」への大きなシフトです。
✨ これからの認知症ケアに必要なこと
この報告書は、次のような提言を行っています:
📌 マイノリティの声を活かす標準的な参加手法の導入
📌 対面とデジタルを組み合わせたハイブリッド型の対話の場づくり
📌 成果だけでなく、プロセスの共有・可視化
📌 短期ではなく、長期的・信頼重視の関係づくり
✅ まとめ:認知症ケアは「共につくる」ものへ
“誰もが安心して老いを迎える社会”をつくるために、
私たちが今、耳を傾けるべき声は、一番聞こえづらい場所にあるのかもしれません。
認知症ケアは「届ける」支援から、「共につくる」未来へ。
本当の意味で“すべての人のための支援”を実現するために、いま私たちにできることを考える時が来ています。
Messiha, H., Smith, S. K., Gardner, M., Hussein, R. J., Leverton, M., Lafortune, L., … & Broome, E. (2025).
Grey literature scoping review: A synthesis of the application of participatory methodologies in underrepresented groups at an elevated risk of dementia. BMC Medical Research Methodology, 25(1), 67. https://doi.org/10.1186/s12874-025-02577-3