脳の老化は“住んでいる地域”で変わる?社会格差が脳に与える影響
私たちは日々、「認知症を防ぐにはバランスの取れた食事や適度な運動が大切」と言われています。
確かにそれらは重要ですが、それだけで脳の健康は守れるのでしょうか?
最新の国際的研究が示したのは、私たちが暮らす社会のあり方――つまり“格差”そのものが、脳の老化や認知症のリスクに深く関わっているという事実でした。
これまであまり解明されてこなかった「社会構造と脳の健康」の関係が、科学的に明らかになりつつあります。
🌎 米州6か国・2,000人以上の脳画像を解析!
この研究は、アメリカ・メキシコ・チリ・アルゼンチン・コロンビア・ブラジルの6か国、2,135人を対象にした大規模な脳画像解析です。
研究チームは、被験者のMRI画像と、彼らが住む地域の所得格差(ジニ係数)を照らし合わせ、脳の体積と機能的結合(神経ネットワークのつながり)がどう違うかを調べました。
🧪 結果:格差の大きい地域ほど「脳が縮んでいた」
最も注目すべき結果は次の通りです:
・格差が大きい地域に住む人ほど、脳の体積が小さく、神経ネットワークの活動も低下していた
・特に影響を受けていたのは、側頭葉・海馬・視床・前頭葉・小脳など、認知機能と記憶に重要な領域
この傾向は、認知症の人だけでなく、健康な人にも共通していました
つまり、社会的な格差そのものが、脳の老化を加速させている可能性があるのです。
🧠 なぜ“格差”が脳に影響を与えるのか?
研究者たちは、以下のようなメカニズムを示唆しています:
・社会的・経済的ストレスの蓄積(慢性的なコルチゾール上昇)
・医療や教育へのアクセス格差による認知刺激の違い
・栄養や運動機会の違い
・地域レベルでの「環境的脳リスク」
これらが長期にわたって影響し、“見えない脳の損傷”がゆっくり進んでいくと考察されています。
🔄 米国よりもラテンアメリカで影響が大きかった理由
興味深いのは、ラテンアメリカ諸国では、米国以上に格差と脳構造の関連が強かった点です。
これは、より社会保障制度が弱く、教育機会や医療へのアクセスに地域差が大きいためと考えられます。
✅ 結論:「脳の健康=個人努力」では限界がある
この研究が私たちに教えてくれるのは、
「脳の老化や認知症予防は、個人の努力だけでなく、社会全体の構造的な公正さが必要だ」
ということです。
食事・運動・脳トレだけでは不十分で、
“どこで、どんな社会の中で暮らすか”が、私たちの脳の未来を左右しているのです。
🌱脳を守るには、社会を変えることも必要
今後の認知症予防や高齢化社会への対策には、脳の健康と社会的格差の関係を正しく理解し、地域ごとに適切な支援や政策を届けることが不可欠です。
あなたの脳を守ることは、
あなたの家族、地域、そして社会全体を健やかに保つ第一歩かもしれません。
「脳を守るには、社会を見直すことから。」
Arenaza-Urquijo, E. M., Zavaliangos-Petropulu, A., Méndez, M. F., Baez, S., Baquero, M., Ibanez, A., … & Seeley, W. W. (2025).
Structural inequality linked to brain volume and network dynamics in aging and dementia across the Americas. Nature Aging, 4, 637–648. https://doi.org/10.1038/s43587-024-00587-7