眠気は“脳のサビ”が記憶していた!?眠気の正体とは
「なぜ私たちは眠くなるのか?」
このシンプルな問いに、2025年5月に発表されたある研究が、驚くべき新事実を明らかにしました。
英オックスフォード大学などの研究チームは、ショウジョウバエの脳を用いて、睡眠をコントロールする神経細胞の中に「眠気の記憶装置」があることを発見しました。
眠気(=睡眠圧)はただの“疲労”ではなく、この装置(脳細胞)にサビ(酸化ストレス)が記憶されることで、私たちは眠気を感じていたというのです。
🔬 睡眠圧とはなにか?
私たちは目を覚ましている時間が長くなると、だんだんと眠くなります。この眠気の正体が「睡眠圧(sleep pressure)」です。
しかし、この睡眠圧はどこに、どうやって蓄積されるのか――それは長らく謎のままでした。
🧪 新発見:眠気は“分子レベルの記憶”
2025年、Nature誌に掲載されたこの研究によると、
睡眠圧は、脳の神経細胞の表面にあるカリウムチャネルという分子の一部(特にShakerチャネルのβサブユニット「Hyperkinetic」)に、「酸化ストレスの痕跡」として蓄積されていくことが分かりました。
具体的には、
起きている間、脳細胞が働き続けると、細胞膜の脂質が酸化され、過酸化脂質やアルデヒド類(例:4-oxo-2-nonenal)が発生します。
それがカリウムチャネルの酸化還元センサーと結合し、「眠気の記憶」として記録されます。
この“記憶”がある程度たまると、脳が眠りを感じるようになります。
⚡ スパイク発火で眠気がリセットされる
驚くべきことに、この「眠気の記憶」は神経の発火(スパイク)によってリセットされることがわかりました。
つまり、
脳が活発に働くことで眠気が解消されるのではなく、眠気そのものが“発火で消される”ように設計されているのです。
このメカニズムは、睡眠によって脳が“酸化ダメージ”を解消し、再びフレッシュな状態へと戻るために不可欠だと考えられます。
🧠 睡眠とは、脳が“酸化”を消去するプロセス
この研究が示唆するのは、睡眠の役割は「疲れを癒す」だけでなく、「酸化ストレスの記憶をリセットする」ことにあるということです。
それはまるで、脳の中に分子のUSBメモリのような仕組みがあり、
そこに「起きていた時間の記録(=酸化痕跡)」が蓄積され、
眠ることで初めてそれが“消去”されるのです。
💡 なぜこの発見がすごいのか?
睡眠の本質的な仕組みを分子レベルで初めて解明した点で画期的
うつ病や不眠症、認知症など、睡眠に関わる病気の新たな治療標的になる可能性あり
将来的には、“眠気スイッチ”を人工的に調節する技術にもつながるかもしれません。
✅ まとめ:あなたの眠気は「脳の酸化の記憶」かもしれない
眠くなるのは、「疲れたから」だけではありません。
脳の分子が、“起きていた時間”をちゃんと記憶しているからなのです。
次に眠くなったときは、こう思ってみてください。
「これは私の脳が“リセットして”と訴えているんだ」と。
睡眠は、あなたの脳を初期化する大切なメンテナンス時間です。
睡眠をおろそかにせず、毎日しっかり休みましょう…zzz
Artiushin, G., Smith, A. N., Gogia, N., Ghosh, A. K., Kim, J., Gu, Q., … & Griffith, L. C. (2025).
Sleep pressure accumulates in a voltage-gated lipid peroxidation memory. Nature, 626(8001), 764–770. https://doi.org/10.1038/s41586-025-08734-5